Pre-alive Photography 1
2018-2019
165×120×2mm
ambrotype
19世紀半ばの欧米では、死者を埋葬前に撮影する文化があった。遺体の姿をまるで生きているかのように加工して故人を写す「死後記念写真(Post-mortem Photography)」においては、当時極めて死亡率の高かった乳幼児の撮影を依頼する親たちが後を絶たなかった。また写真技術の発展に伴って、多重露光といった写真特有の表現効果が生み出され、死者の魂が写真の中に写り込んだとする心霊写真が流行して世間の耳目を集めた。
一方で西洋から写真技術が紹介されて間もない同時代の日本では、写真に写ると魂が吸い取られるという俗説がまことしやかに囁かれた。当時イギリスから持ち込まれた「湿板写真」は、溶液を塗布したガラス板の上に像を写し取る技法であるが、器具を固定してから数十秒の間、被写体となる人物はじっと静止していなければならなかった。瞬きさえ憚られただろう撮影の最中に、魂が写真機に吸い取られてその片鱗が図像として定着した、というイマジネーションが生まれたのかもしれない。
死者を生者のように映し、ときに死者の魂そのものを映し出し、そして生者の魂さえも吸い取ることのできる技術。写真の黎明期における東西のこれらの逸話の数々は、当時の人々にとって写真がいかに深く魂の表象と結びついていたのかを物語っている。また、魂が吸い取られることを回避するために、その身代わりとして人形を一緒に撮影するアイデアが日本で生まれ、その風習は20世紀半ばまで残っていたという。
私は、これら写真と魂の表象にまつわる言説が人形と結びついた事例を基にして、精巧な等身大の乳児型人形である「リボーンドール (Reborn Doll)」を「死後記念写真」の手法を用いて湿板写真で撮影する《生前記念写真(Pre-alive Photography)》の制作を2018年に開始した。リボーンドールとは、子どもを亡くした母親や不妊治療に苦しんだ女性たちによって子どもの代わりに購入される人形を指す。自作《生前記念写真》では、様々な背景を持つ女性たちの想いが託されたリボーンドールを死後記念写真の形式になぞらえることで、人形の中に眠る魂を「再生」させることを試みている。
人間は、生物ではない人形に対して愛着や恐れといった複雑な感情を抱き、しばしばそこに生命があるかのように接する。そのとき私たちが人形から感得しうる生命の片鱗こそが、いわば人間に見出されることを待っている「人形の中の魂」に他ならないのである。私は、人形と写真というメディアの交錯を通して魂の表象の在り方を探求し、生と死、生命と非生命の境界と向き合う意義を自身の作品制作の中に見出している。
個展「The Ghost in the Doll」(原爆の図丸木美術館)
Pre-alive Photography 10
2019
165×120×2mm
ambrotype
Pre-alive Photography 3
2018-2019
165×120×2mm
ambrotype
Pre-alive Photography 8
2018-2019
165×120×2mm
ambrotype
Pre-alive Photography 11
2019
165×120×2mm
ambrotype
Pre-alive Photography 14
2019
165×120×2mm
ambrotype
Sleeping Baby
2019
8’24″loop
video installation
exhibition view photo by Ken KATO