Spectra

スペクトラ
photography and sculptor
2021

BankART U35 Mika Kan Solo exhibition

私たちは視覚的に何かを認識するとき、すべからく光を見ている。光は眼の水晶体の中で屈折し、網膜上で像を結ぶ。カメラもまた、レンズを通した光を撮像素子に記録する。たとえ目に映るものが確からしく見えていたとしてもそれが真実とは限らない。光学的な現象や物の模造、デジタル上の改変などによって、見え方はいくらでも変化するからだ。
 1672年に、光の構造を分光によって解明したアイザック・ニュートンは、白色光をプリズムによって分解し現れた虹色の光の帯を、ラテン語で幽霊や幻影を意味するspectrum(スペクトラム・スペクトル)と名付けた。
 それから約150年後、写真が発明されると、人々は「写真に写ると魂が吸い取られる」と恐れた。写真家のナダールは、友人であるオノレ・ド・バルザックが、撮影されることに「強烈な恐怖」を感じていた、と自伝『私が写真家だった時』(1900)で紹介している。バルザックによると「すべての生物はスペクトルで構成されている」とし、写真に写る度に「スペクトル層」が「取り去られて、プレート上にとらえられるはず」だという。
 かつて幽霊だったspectrumは、光学的現象になり、そして再び魂として写真に再構成される存在になったのだ。
 今日、spectrumを呼び起こすのは簡単だ。プリズムや分光シートを使えば、容易に白色光を分けることができるし、LEDライトで特定の色調を発生させることができる。その光をレンズで集めて一枚の写真として定着させれば、生命のない存在にも、限りなく魂に近い何かを与えることができるのではないだろうか。たとえそれが真実ではなかったとしても。

《注意深く見るための機械 01》
Watchful Machine 01
2021
iron, fresnel lens, lens filter

Calla 028
2021
1118×1690mm
inkjet print

Calla 020
2021
1690×1118mm
inkjet print

Calla 017
2021
1118×1690mm
inkjet print

《実像のプリズム》
a real image of prism
2021
mirascope, prism, box,